リスク許容度が違う夫婦のための投資の話し合いステップ 資産形成を円満に進めるには
投資への関心と夫婦間のギャップ
共働きのご家庭において、将来に向けた資産形成として投資を検討される機会は増えているかと存じます。しかし、いざ夫婦で話し合おうとした際に、お互いの投資に対する考え方やリスクへの捉え方が異なり、どのように進めていけば良いのか分からず、話し合いが停滞してしまうというケースも少なくないようです。
一方が積極的に投資に取り組みたいと考える一方で、もう一方は元本割れのリスクを恐れ、消極的な姿勢であるなど、夫婦間でリスク許容度に差がある場合、お金の話し合いは感情的になったり、相手を責めるような雰囲気になったりする可能性があります。この違いをどのように理解し、歩み寄っていくかが、夫婦円満に資産形成を進める上で重要な鍵となります。
なぜ、投資のリスク許容度は夫婦で異なるのか
夫婦であっても、育った環境、過去の経験、保有する資産状況、将来への価値観、性格などは異なります。こうした違いが、投資に対するリスク許容度の差として現れることは自然なことです。
例えば、過去に投資で損失を出した経験がある方はリスクを避けたいと考えやすい傾向があります。また、安定志向が強く、予測できない事態への不安を感じやすい方も、リスクの高い投資には抵抗を感じるかもしれません。一方で、経済状況や金融商品について学ぶことに積極的で、試算やシミュレーションに基づいてリターンを得られる可能性に魅力を感じる方は、比較的高いリスクも許容できる場合があります。
どちらの考え方も、それぞれの経験や価値観に基づいたものであり、一方的に「正しい」「間違っている」と判断できるものではありません。大切なのは、この違いがあることを認識し、互いの考えの背景にあるものを理解しようと努める姿勢です。
リスク許容度の違いが夫婦関係に与える影響
リスク許容度の違いは、単にお金の話が進まないというだけでなく、夫婦関係に以下のような影響を与える可能性があります。
- 意見の対立と不信感: 投資方針を巡って意見が合わず、相手の考え方を理解できないと感じることで、お互いへの不信感につながる可能性があります。
- コミュニケーションの回避: 意見が衝突することを恐れ、お金に関する重要な話し合いそのものを避けるようになり、必要な将来設計が進まなくなる恐れがあります。
- 機会損失: 適切なタイミングで投資を始められなかったり、夫婦どちらかの意見に偏った投資戦略を選択したりすることで、本来得られたかもしれないリターンを得られない可能性があります。
- 後々の後悔や責任の押し付け: もし夫婦の合意なく投資を進めて損失が出た場合、後になって「あの時、あなたが賛成しなかったから」「あの時、無理にやらせたから」といった形で、責任の押し付け合いになるリスクも考えられます。
円満に話し合うための第一歩:現状の把握と共有
まずは、夫婦それぞれが現在の投資に対する考え方やリスク許容度について、正直に話し合うことから始めましょう。
以下の問いかけを参考に、ご自身の考えを整理し、パートナーと共有することを試みてください。
- 投資に対して、どのようなイメージを持っていますか? (例: 怖いもの、難しそう、将来のために必要など)
- 過去に投資の経験はありますか? その経験はどのようなものでしたか?
- 投資でどれくらいの期間で、どれくらいの資産を増やしたいと考えていますか?
- 資産が一時的に減る可能性について、どれくらい許容できますか? (例: 全く減ってほしくない、〇〇%くらいなら耐えられるなど)
- 投資について、どのような知識や情報を持っていますか? 不足していると感じる点はありますか?
- 投資を行うことで、どのような将来を実現したいですか?
これらの問いに対する答えを共有することで、お互いの「現在地」を理解することができます。この段階では、相手の意見に対して否定的な反応をせず、まずは傾聴する姿勢が重要です。
異なるリスク許容度を乗り越える対話のポイント
お互いの現状を共有した上で、異なるリスク許容度を乗り越え、共通の戦略を立てるためには、以下の点を意識して対話を進めることが有効です。
- 共通の「目的」に焦点を当てる: なぜ投資を検討しているのか、その根源にある目的(例: 老後資金の確保、子供の教育費、住宅購入資金など)を再確認し、共有します。目的が明確になれば、それを達成するための手段として、どのような投資が適切かを冷静に検討しやすくなります。
- 「なぜ」を深掘りする: 相手が特定のリスクを避けたい、あるいは取りたいと考える「理由」を尋ねてみましょう。「なぜ怖いと感じるの?」「なぜその方法に興味があるの?」といった問いかけは、相手の価値観や不安、期待の背景を理解する手助けとなります。
- 感情と事実を区別する: 投資に関するニュースや他者の経験談などが、過度な不安や期待を生むことがあります。冷静に事実に基づいた情報(商品の仕組み、過去の運用実績、リスクの種類など)を確認し、感情的な判断だけでなく、論理的な視点も取り入れるよう努めます。
- 具体的な選択肢を学ぶ: 漠然とした「投資は怖い」というイメージだけではなく、iDeCoやつみたてNISAのような税制優遇のある制度や、分散投資、長期・積立投資といったリスクを抑える方法についても学びます。具体的な選択肢を知ることで、不安が軽減されたり、自分たちに合った方法が見つかったりする可能性があります。
- お互いの「納得できる範囲」を探る: 全く同じリスク許容度になる必要はありません。夫婦で話し合い、お互いが「これなら納得できる」「これなら許容できる」と感じられる範囲で、共通の投資方針や具体的な商品を選定することを目指します。無理に相手の意見に合わせようとせず、かといって自分の意見だけを押し通そうとせず、歩み寄りを見つけることが大切です。
具体的な資産形成戦略の検討例
異なるリスク許容度を持つ夫婦が検討できる具体的なアプローチには、以下のようなものがあります。
- 夫婦それぞれの名義で異なるリスクレベルの商品に投資する: リスクをより許容できる側は比較的リスクの高い商品を、そうでない側はリスクの低い商品を選ぶことで、全体としては夫婦の平均的なリスク許容度に合わせたポートフォリオを構築できます。ただし、夫婦全体の資産状況や目標は定期的に共有することが重要です。
- 共通口座での運用はリスクを抑える: 夫婦共通の目標(例: 住宅購入資金、子供の教育費など)のための資金を共通口座で運用する場合は、よりリスクの低い、安定性を重視したポートフォリオを選択するという方法もあります。
- 少額から、低リスクの方法で始める: まずは少額から、つみたてNISAのような非課税制度を利用し、リスク分散効果の高いインデックスファンドなどに積立投資を始めることで、実際の運用を経験し、徐々に慣れていくという方法も有効です。
- 専門家の意見を聞く: 夫婦間の話し合いだけでは解決が難しい場合や、より客観的なアドバイスが欲しい場合は、独立系のファイナンシャルプランナー(FP)など、専門家への相談を検討することも一つの選択肢です。夫婦それぞれの状況や考え方を踏まえ、中立的な立場から適切なアドバイスを得られる可能性があります。
話し合いを続けるための工夫
一度話し合って終わりではなく、資産形成は継続的な取り組みです。定期的に夫婦でお金の状況や投資の進捗を確認し、必要に応じて方針を見直す機会を持つことが大切です。
例えば、「毎月第3土曜日の夕食後に30分」など、定期的に話し合う時間を設け、その時間を「お金の会議」として習慣化することも有効です。その際、感情的にならず、お互いを尊重して話を聞くという基本的なルールを設けることも、建設的な対話を続ける上で助けとなるでしょう。
まとめ
夫婦で投資に対するリスク許容度が異なることは、決して珍しいことではありません。この違いを問題と捉えるのではなく、夫婦がお互いの価値観や考え方を深く理解するための機会と捉えることができれば、より強固な信頼関係を築くことにもつながります。
感情的にならず、なぜそう考えるのか、その背景にあるものを丁寧に聞き合い、将来の共通目標を確認しながら、お互いが納得できる形で資産形成を進めるための対話を重ねていくこと。それが、リスク許容度が異なる夫婦が、円満に資産を築いていくための最も確かな道筋であると言えるでしょう。