共働き夫婦のための 予期せぬ大きな出費に備えるためのお金の話し合い
はじめに
仕事も家庭も両立させながら将来に備える共働き夫婦にとって、予期せぬ大きな出費は避けたい事態の一つです。医療費、自然災害による被害、車の故障、あるいは思わぬ収入減など、人生には予測困難な出来事が起こり得ます。こうした事態に金銭的に対応できる準備ができているかいないかは、家計の安定性はもちろんのこと、夫婦の関係性にも大きな影響を与える可能性があります。
日々の忙しさの中で、将来の不確実性について夫婦でじっくり話し合う時間は確保しにくいかもしれません。しかし、いざという時に慌てず、お互いを責めることなく冷静に対処するためには、普段からの備えと、そのための夫婦間の共通認識が不可欠となります。本稿では、共働き夫婦が予期せぬ大きな出費に備えるためのお金の話し合いを、どのように進めれば良いかについて解説します。
なぜ予期せぬ出費への備えと話し合いが重要なのか
予期せぬ大きな出費が発生した際、準備が不十分だと、以下のような問題が生じやすくなります。
- 精神的なストレスの増大: 急な資金繰りに追われ、不安や焦りが高まります。
- 夫婦間の対立: 誰の責任か、どう対応すべきかなどを巡って意見が対立し、関係が険悪になることがあります。
- 将来計画への影響: 貯蓄を取り崩したり、計画外の借入れをしたりすることで、マイホーム資金や教育費、老後資金といった長期的な目標達成が困難になる可能性があります。
- 機会損失: 急な資金需要に対応するため、本来資産形成に回せたはずのお金を消費に充てざるを得なくなります。
こうした問題を避けるためには、予期せぬ事態を想定し、事前に夫婦で具体的な備えについて話し合い、合意しておくことが非常に有効です。
予期せぬ出費に備えるための具体的なステップ
予期せぬ出費への備えは、計画的に進めることが望ましいです。夫婦で以下のステップに沿って話し合いを進めることを検討してみましょう。
ステップ1:想定されるリスクの洗い出し
まずは、自分たちの家庭に起こりうる予期せぬ事態にはどのようなものがあるか、リストアップしてみます。
- 健康関連: 病気や怪我による医療費、介護費用
- 住居関連: 自然災害(地震、台風など)による損壊、火災、設備の故障(給湯器、エアコンなど)
- 車両関連: 車の故障、事故による修理費用や買い替え
- 雇用・収入関連: リストラ、会社の倒産、病気による休職、扶養の変更
- 家族関連: 慶事や弔事における急な出費、遠方の親族のサポート
これらのリスクについて、夫婦それぞれがどのような点を懸念しているのかを共有することから始めます。
ステップ2:備えの目標額を設定する
洗い出したリスクに備えるために、具体的にいくら程度の資金が必要になるかを検討し、目標額を設定します。
- 緊急予備資金: 最低限、生活費の3ヶ月〜6ヶ月分程度の緊急予備資金を用意することが推奨されます。これは、収入が一時的に途絶えた場合や、突発的な生活費の増大に備えるためのものです。
- 項目別の備え: 自然災害への備えであれば、ハザードマップを確認し、自宅の立地に応じたリスクを評価します。車の買い替えであれば、中古か新車か、車種は何かといった具体的な想定に基づき、必要な金額を算出してみます。
目標額は一度決めれば終わりではなく、ライフステージの変化や家族構成の変化に応じて見直すことが重要です。
ステップ3:具体的な準備方法の検討
目標額を設定したら、どのようにしてその資金を準備するかを検討します。
- 貯蓄: 最も基本的な方法です。緊急予備資金は、いつでも引き出せるように普通預金や定期預金で確保することが一般的です。
- 保険: 自然災害(火災保険、地震保険)、病気や怪我(医療保険、生命保険)、車の事故(自動車保険)など、リスクの種類に応じて適切な保険加入を検討します。既存の保険契約がある場合は、補償内容が十分か確認することも重要です。
- 資産運用: 長期的に見て資産を増やすための手段ですが、予期せぬ出費への備えとしては、流動性(換金のしやすさ)やリスクの大きさを考慮してポートフォリオの一部として位置づけることが考えられます。
これらの方法を組み合わせ、自分たちの家計状況やリスク許容度に合った備え方を夫婦で話し合って決定します。
ステップ4:夫婦での情報共有と合意形成
上記のステップ1〜3を通じて洗い出したリスク、目標額、準備方法について、夫婦でしっかりと情報共有し、合意を形成することが最も重要な部分です。
- 定期的な話し合いの場: 忙しい中でも、月に一度など、定期的にお金について話し合う時間を設けることが有効です。
- 情報の可視化: 家計簿アプリやスプレッドシートなどを活用し、現在の貯蓄額や保険加入状況などを夫婦で共有できるようにしておくと、具体的な話し合いが進みやすくなります。
- お互いの意見を尊重: リスクに対する考え方や、お金の使い道に関する価値観は夫婦でも異なる場合があります。一方的に自分の意見を押し付けるのではなく、お互いの考えを尊重し、納得できる落としどころを見つける姿勢が重要です。
夫婦で話し合う際のポイント
予期せぬ出費への備えについて話し合う際は、以下の点に留意すると、より建設的な対話が可能になります。
- 感情的にならない: 将来への不安や過去の失敗(もしあれば)を責めるような感情的なやり取りは避け、冷静に事実に基づいた話し合いを心がけます。
- 具体的な数字を用いる: 「なんとなく不安」ではなく、「〇〇に××円くらい必要になるかもしれない」といった具体的な数字を提示することで、現実的な話し合いが進みます。
- 「もしも」を具体的に想像する: 例えば、「もしどちらかが病気で働けなくなったら」といった具体的な状況を想定し、その際に必要になる費用や手続きについて話し合ってみます。
- 目標を共有する: 何のために備えるのか(例: 子供の教育、自分たちの老後、安心して暮らすためなど)、共通の目標を再確認することで、夫婦で協力して備えを進めるモチベーションにつながります。
事例:予期せぬ車の故障に備えた夫婦
都内で共働きをしているAさん夫婦(30代後半)は、日々の生活費管理はできていましたが、まとまった予備資金はありませんでした。ある日、購入して間もない車がエンジントラブルを起こし、高額な修理費用が必要になりました。予期せぬ出費に夫婦で動揺し、一時的に「なぜもっと早く点検に出さなかったのか」「いくら貯金があるのか把握していない」といった感情的な言葉が飛び交いましたが、冷静さを取り戻し話し合いました。
この経験を機に、Aさん夫婦は「今後もし同様の、あるいはもっと大きな出費があったら、どう対応できるだろうか」と真剣に考えるようになりました。まず、話し合いの時間を確保し、車だけでなく、家電の故障や自分たちの健康問題など、起こりうるリスクを洗い出しました。次に、緊急予備資金として最低限必要な金額を設定し、毎月の貯蓄目標額を見直しました。また、車の修理費用についても、修理ではなく買い替えの場合にかかる費用も想定し、今後の備えに組み込むことにしました。
話し合いを通じて、お互いの不安やお金に対する考え方を理解し、共通の目標に向かって協力することの重要性を再認識しました。その後、家計管理ツールを導入して資産状況を共有し、定期的に備えの進捗を確認する時間を持つようになりました。これにより、予期せぬ事態への不安は軽減され、夫婦間の信頼関係も深まったといいます。
まとめ
予期せぬ大きな出費への備えは、家計を守るだけでなく、夫婦関係を安定させるためにも重要な取り組みです。忙しい共働き夫婦であっても、将来のリスクを想定し、目標額を設定し、具体的な準備方法を検討するプロセスを夫婦で共有することで、いざという時に冷静に対応できる心の余裕と経済的な基盤を築くことができます。
まずは、お互いの率直な懸念を共有することから始めてみましょう。定期的な話し合いの場を設け、お互いの意見を尊重しながら具体的な備えを進めることは、夫婦の絆を深めることにも繋がります。この記事が、共働き夫婦の皆様が予期せぬ事態に共同で備え、より安心できる将来を築くための一助となれば幸いです。