共働き夫婦の家計管理 続けるための無理のない予算設定と見直し方
はじめに
共働きのご夫婦にとって、仕事と家庭の両立は日常であり、日々の生活の中で家計管理に十分な時間を割くことは容易ではありません。将来のためにしっかりと計画を立てたいという意欲がありながらも、具体的な方法が見当たらず、特にお金の話し合いが夫婦関係に軋轢を生む原因となってしまうケースも少なくありません。
お金に関する悩みは、漠然とした不安から具体的な収支のバランス、将来設計まで多岐にわたります。中でも「予算管理」は、家計全体を把握し、将来への準備を進める上で不可欠な要素です。しかし、一度予算を決めたとしても、それを継続して実行し、必要に応じて見直していくことはさらに難しい課題となります。どのようにすれば、忙しい日々の中でも「無理なく」予算管理を続け、かつ夫婦関係を良好に保ちながら「見直し」を行うことができるのでしょうか。
本記事では、共働き夫婦が直面しやすい家計管理の課題に焦点を当て、ストレスなく継続できる予算設定の考え方と、関係性を損なうことなく定期的な見直しを行うための具体的なステップやコミュニケーションのヒントをご紹介します。
共働き夫婦が予算管理でつまずきやすい点
共働きのご夫婦が家計管理、特に予算設定と継続的な管理においてつまずきやすい要因はいくつか考えられます。
- 時間的な制約: 仕事に加えて家事や育児に追われる中で、腰を据えて家計と向き合う時間や精神的な余裕を持ちにくい状況があります。
- お互いの支出の把握不足: 各々がある程度の収入を得ているため、相手の支出や全体像が見えにくくなり、無駄遣いがあるのではないかといった疑念や不満が生じやすくなります。
- 完璧主義による疲弊: 細部まで厳密に予算を守ろうとしすぎるあまり、窮屈さを感じたり、一度予算を超過した際に挫折感を覚えたりして、管理そのものをやめてしまうことがあります。
- 見直しの機会の逸失: 予算は一度設定したら終わりではなく、生活状況の変化に合わせて定期的に見直す必要があります。しかし、見直しのための時間を作らなかったり、見直しの際に意見の衝突を避けようとして話題にすることを避けたりすることがあります。
- お金の話が感情的になりやすい: 予算超過や想定外の出費について話し合う際に、事実確認ではなく相手を責めるような口調になったり、感情的な反論になったりして、建設的な話し合いが難しくなります。
これらの要因が重なることで、予算管理が単なる事務作業ではなく、夫婦関係に影を落とす原因となってしまう可能性があります。
「無理のない予算設定」を考える
予算管理を継続するためには、まず「無理のない」設定を行うことが出発点となります。これは、収支を厳しく管理しないという意味ではありません。現実的な範囲で、夫婦それぞれが納得できる形を目指すということです。
- 現状の正確な把握: まずは、過去1〜3ヶ月程度の収入と支出を把握することから始めます。家計簿アプリ、エクセル、通帳の記録などを活用し、何にいくら使っているのかを客観的に可視化します。この段階では、良し悪しを判断するのではなく、あくまで現状を把握することに集中します。
- 固定費と変動費の区分け: 支出を「固定費」(住居費、通信費、保険料、サブスクリプションサービスなど、毎月ほぼ一定額かかるもの)と「変動費」(食費、日用品、娯楽費、交際費など、月によって支出額が変わるもの)に区分けします。固定費は削減効果が大きいため、見直しの優先順位を検討する価値があります。
- 「譲れない支出」と「削減可能な支出」の洗い出し: 夫婦それぞれにとって、生活の質を維持するために譲れない支出(例: 趣味、自己投資、外食の頻度など)と、意識すれば削減可能な支出について話し合います。この話し合いは、お互いの価値観を知る良い機会となります。
- 予算枠の設定: 現状把握と洗い出しに基づき、各項目やカテゴリごとに月間の予算枠を設定します。特に変動費については、現実的な範囲で設定することが継続の鍵となります。最初は細かく設定しすぎず、食費、日用品、娯楽費といった大きなくくりで始めることも有効です。
- 貯蓄・投資目標の組み込み: 将来のライフイベント(住宅購入、教育資金、老後資金など)に向けた貯蓄や投資の目標額を予算に組み込みます。「収入 − 支出 = 貯蓄」ではなく、「収入 − 貯蓄 = 支出」という考え方を取り入れることで、計画的な資産形成に繋がりやすくなります。
この予算設定の過程で重要なのは、夫婦のどちらか一方が一方的に決めるのではなく、必ず二人で話し合い、お互いの意見や価値観を尊重しながら進めることです。
具体的な予算設定のステップと夫婦での確認
以下に、具体的な予算設定のステップと、夫婦での確認時の会話のヒントを示します。
ステップ1: 現状の収支を把握する * 直近の給与明細や銀行口座の入出金履歴、クレジットカードの利用明細などを集めます。 * 家計簿アプリやエクセルなどを活用して、過去1〜3ヶ月の収支をデータとしてまとめます。
ステップ2: 固定費を洗い出す * 家賃(住宅ローン)、駐車場代、光熱費、通信費(携帯、ネット)、保険料、車両費、サブスクリプション料金などをリストアップし、合計額を算出します。
ステップ3: 変動費に予算枠を設定する * 食費、外食費、日用品費、被服費、美容費、医療費、交際費、娯楽費、交通費などをリストアップします。 * ステップ1で把握した現状の支出を参考に、無理のない範囲で各項目の予算枠を設定します。最初は「食費+日用品費」「娯楽費+交際費」のようにまとめて設定するのも良いでしょう。
ステップ4: 貯蓄・投資目標と予算を組み込む * 短期(数年以内)、中期(10年程度)、長期(老後)の貯蓄・投資目標について夫婦で話し合います。 * 目標達成のために毎月・毎年どれくらいの金額を充てたいかを決め、それを予算に組み込みます。収入からまず貯蓄・投資分を差し引き、残りを支出に充てるように考えると、貯蓄が進みやすくなります。
ステップ5: 夫婦で設定した予算案を確認し、合意する * 設定した予算案を夫婦で共有し、それぞれの項目について話し合います。 * 会話のヒント: * 「この予算案について、どう思いますか? 無理なく続けられそうですか?」 * 「特に変動費のこの項目について、何か気になる点はありますか?」 * 「削減を検討できそうなところはありますか? 逆に、これだけは譲れないという支出はありますか?」 * 「お互いの希望や価値観を踏まえて、この予算で合意できますか?」 * 「もし少し窮屈に感じる部分があれば、調整を検討しましょう。」
この話し合いを通じて、夫婦共通の予算目標として合意形成を図ることが重要です。
予算設定と同じくらい重要な「見直し」
予算は一度設定して終わりではありません。生活状況は常に変化するため、定期的な見直しは不可欠です。しかし、見直しこそが夫婦間の意見の衝突を生みやすい場面でもあります。予算からのずれを指摘することが、相手への非難と受け取られてしまうことがあるためです。
「関係を損なわない見直し方」
見直しを夫婦関係の維持・向上に繋げるためのポイントは以下の通りです。
- 定期的な見直し日を決める: 忙しい中でも時間を確保できるよう、月に一度、または四半期に一度など、定期的に家計を見直す日をあらかじめ設定しておきます。カレンダーに共有しておくと忘れにくいでしょう。
- 見直しの目的を共有する: 見直しは、予算通りにいかなかったことを責めたり、相手を非難したりするためのものではないことを確認し合います。あくまで、家計の状況を把握し、必要に応じて計画を修正し、目標達成に向けて軌道修正を行うための共同作業であるという認識を共有します。
- 具体的なデータを見て話す: 予算からのずれがあった場合、感情的な憶測ではなく、ステップ1で把握したデータ(家計簿アプリの記録、通帳、明細など)を基に話し合います。「〇〇費が予算より〇〇円オーバーしているね。何か理由がありそうかな?」のように、客観的な事実から入ることで、非難めいた印象を和らげることができます。
- うまくいかなかった点だけでなく、うまくいった点も評価する: 予算通りにできた項目や、意識して支出を抑えられた点など、ポジティブな側面にも目を向け、お互いの努力を認め合います。「〇〇費は予算内に収まっていて素晴らしいね」「△△さんのおかげで無駄遣いが減らせたと思うよ」といった肯定的なフィードバックは、モチベーション維持に繋がります。
- 相手の意見や状況に配慮する: 予算からのずれが生じた理由には、仕事の忙しさや予期せぬ出費など、様々な要因が考えられます。相手の状況や説明に耳を傾け、理解しようと努める姿勢が重要です。「忙しい時期だったから、食費がかさんでしまったかもしれないね。お疲れ様。」のように、労いの言葉を添えることも有効です。
- 一方的な変更ではなく、相談して修正する: 予算設定の際と同様に、予算の修正も夫婦の同意を得て行います。「この項目、現状の予算だと少し厳しそうだから、次の月から〇〇円増やしてみるのはどうかな?」「その代わりに、こちらの項目を少し抑える検討をしてみましょうか。」のように、対話を通じて解決策を見出します。
続けるための工夫と事例
予算管理を継続していくためには、いくつかの工夫を取り入れることも有効です。
- 共通のツールを活用する: 家計簿アプリやクラウド上のスプレッドシートなど、夫婦でリアルタイムに情報を共有できるツールを活用すると、お互いの支出状況を把握しやすくなり、見直しもスムーズになります。
- 完璧を目指さない割り切り: 毎月全ての項目で予算を守ることは現実的ではないかもしれません。多少のずれは許容範囲とし、長期的な視点で家計全体が健全な方向に向かっているかを重視する姿勢も大切です。
- ご褒美を設定する: 夫婦で決めた目標(例: 半年間の貯蓄目標達成)をクリアした場合に、少しだけ贅沢をするなどの「ご褒美」を設定することも、モチベーション維持に繋がります。
- 困ったら専門家に相談する: 夫婦だけでの話し合いが難しい場合や、より専門的なアドバイスが必要な場合は、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することを検討してみましょう。第三者の客観的な意見が、状況を打開する糸口となることもあります。
事例紹介: 共働きのAさんご夫妻(30代後半)は、これまで漠然と家計を管理しており、将来のために貯蓄が必要だと感じつつも、具体的な予算設定は行っていませんでした。一度試みたこともありましたが、細かく設定しすぎて管理が続かず、予算オーバーを巡って軽い口論になることもあったため、家計の話は避けるようになっていました。
そこで、Aさんご夫妻は「無理なく続けること」を目標に、家計管理を見直すことにしました。まず、家計簿アプリを導入し、3ヶ月間は支出の記録だけをつけ、現状を把握することから始めました。次に、毎月第3日曜日の夜に見直し時間を設定し、簡単な食事をしながらアプリのデータを見ながら話すことにしました。最初は変動費を「食費・日用品」「レジャー・交際費」「その他」の3つに大きく分け、それぞれに現実的な予算を設定しました。
見直しの際は、予算をオーバーした項目があっても、お互いを責めるのではなく、「何か原因があったのかな?」「次はこうしてみようか」と建設的に話し合うことを心がけました。また、予算内に収まった項目や、意識的に努力した点については、「今月は〇〇を頑張ったね」と労い合いました。
この取り組みを続ける中で、お互いの支出の傾向や価値観に対する理解が深まりました。また、完璧を目指さず、多少のずれは気にせず、データに基づいて冷静に話し合う姿勢が定着したことで、お金の話が以前のように険悪になることが減りました。無理のない予算設定と定期的な見直しを通じて、家計全体が見える化され、漠然としたお金の不安が軽減されると共に、夫婦間のコミュニケーションも円滑になっていったといいます。
まとめ
共働き夫婦にとって、家計管理は個人の問題ではなく、夫婦二人の共通課題です。特に予算設定と継続的な見直しは、将来の目標達成に向けた重要なステップであり、同時に夫婦関係を映し出す鏡とも言えます。
「無理のない」予算設定は、現実的な収支に基づき、夫婦それぞれの価値観を尊重しながら行うことが鍵となります。そして、定期的な「見直し」は、単なる予算のチェックにとどまらず、お互いの状況を理解し、支え合い、共に計画を修正していくための大切なコミュニケーションの機会となります。
完璧を目指しすぎず、お互いの努力を認め合いながら、楽しみながら取り組む姿勢が、家計管理を長く続けるための秘訣です。この記事でご紹介したステップやヒントが、ご夫婦で建設的にお金の話を進め、家計管理を通じてより一層円満な関係を築いていくための一助となれば幸いです。