共働き夫婦のお金の目標が異なる場合 建設的なすり合わせと共通認識の醸成
共働き夫婦が直面しやすいお金の目標の違いとその影響
共働き世帯では、夫婦それぞれが収入を得ているため、個々のキャリアプランや価値観に基づいたお金に対する考え方や目標を持ちやすい傾向が見られます。例えば、「早期リタイアを目指して積極的な投資をしたい」と考える方もいれば、「子どもの教育資金を最優先に、堅実に貯蓄したい」と考える方、「旅行や趣味にしっかりお金をかけ、今の生活を充実させたい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
これらの個々の目標は、互いを尊重し、共有できていれば問題にはなりにくいものです。しかし、お互いの目標を十分に理解せず、あるいは目標自体が明確になっていないまま家計運営を行っていると、以下のような状況に陥ることがあります。
- どちらかの目標達成に向けた行動が、もう一方の目標達成を妨げているように感じられる
- お金の使い方や貯め方に関する意見が対立しやすくなる
- 漠然とした不安や不満が募り、話し合いを避けるようになる
- 共通の長期的なマネープランが立てられず、将来への見通しが曖昧になる
お金に関する目標の違いそのものが問題なのではなく、その違いを認識し、どのように扱うかが夫婦関係に影響を及ぼす鍵となります。大切なのは、異なる目標を持つことを自然なことと捉え、それをどのようにして二人の共通の道筋へと統合していくかという視点です。
お金の目標が異なる原因と理解のための視点
夫婦でお金の目標が異なる背景には、様々な要因が存在します。これらを理解することは、建設的な話し合いの第一歩となります。
- 育ってきた環境や金銭教育: お金に対する価値観や習慣は、幼少期の家庭環境や受けた金銭教育に大きく影響されます。節約が当たり前の家庭と、多少の浪費を許容する家庭で育った場合、お金に対する基本的な感覚が異なることがあります。
- キャリアや収入状況: 働く業界や職種、役職などによって、将来の収入見込みや働き方に対する考え方が異なります。自身のキャリアパスと紐づいたお金の目標(例:将来独立するための資金、スキルアップのための投資)を持つことも自然です。
- 経験したライフイベント: これまでの人生で経験した大きな出来事(親の病気、自身の転職、大きな買い物の成功・失敗など)が、お金に対する考え方やリスク許容度に影響を与えている可能性があります。
- 性格や価値観: リスクを避けたい堅実な性格か、新しいことに挑戦したい意欲的な性格かによっても、資産運用に対する考え方や、お金を何に使うことによって幸福を感じるかが異なります。
- 情報収集の方法や知識: お金に関する情報源(書籍、セミナー、SNSなど)や、学んできた知識量によっても、選択肢として考えることや、重要視するポイントが変わってきます。
これらの要因は複雑に絡み合っており、一概にどちらが「正しい」ということはありません。大切なのは、相手のお金の目標や考え方が、どのような背景から生まれているのかに関心を持ち、理解しようと努める姿勢です。単に「なぜそう考えるのか」を問うだけでなく、その根底にある「何を大切にしたいのか」という価値観に焦点を当てることで、対話はより深まります。
異なるお金の目標をすり合わせるための具体的ステップ
お互いの目標の違いを理解した上で、それをどのように二人の共通認識へと発展させていくか、具体的なステップを以下に示します。
ステップ1:お互いの「お金の目標」を言語化し、共有する場を設ける
まずは、それぞれが持つお金に関する目標を具体的に書き出してみることから始めます。短期(1〜3年後)、中期(3〜10年後)、長期(10年以上)といった時間軸で考えてみるのも良いでしょう。書き出す内容は、漠然としたものでも構いません。「〇年後に海外旅行に行きたい(費用目安:〇円)」「△年後に住宅購入を検討したい(頭金目安:〇円)」「将来的に仕事をセーブしたい(そのための資産形成:〇円)」など、具体的なイメージを持つことが重要です。
次に、これらの目標を夫婦で共有するための時間と場所を設けます。忙しい日々の中で、落ち着いて話ができる時間(例えば週末の午前中など)を確保し、リラックスできる場所を選びましょう。一方的に話すのではなく、お互いの目標をじっくりと聴き合う姿勢が大切です。
ステップ2:目標の背景にある「価値観」や「思い」を共有する
目標そのものだけでなく、「なぜその目標を持つのですか?」という問いかけを通じて、その背景にある価値観や思いを共有します。「早期リタイアしたいのは、健康なうちに趣味や旅行を楽しみたいから」「子どもの教育資金を最優先したいのは、本人が望む進路を経済的にサポートしたいから」といった、目標の奥にある感情や願望を理解することで、より深い共感が生まれます。
この段階では、目標の妥当性や実現可能性を評価するのではなく、まずは相手の考えを受け止めることに重点を置きます。批判や否定をせずに、じっと耳を傾ける傾聴の姿勢が非常に重要です。
ステップ3:共通する目標や優先順位を見つける
個々の目標を共有し、背景を理解した上で、次に夫婦として共通して目指したいことや、優先したいことを探ります。意外と、根底では「家族の安心や幸福」「将来への備え」といった共通の願いがあることに気づくかもしれません。
例えば、一方が「投資で資産を増やしたい」と考え、もう一方が「堅実に貯蓄したい」と考えている場合でも、「将来のために資産を形成する」という点では目標が一致している可能性があります。表現方法や手段が異なるだけで、向かっている方向は同じかもしれません。共通の目標や優先順位を明確にすることで、二人のベクトルを合わせる土台ができます。
ステップ4:個別の目標を共通の計画にどう組み込むかを検討する
共通の土台ができた上で、それぞれの個別の目標を、夫婦全体のマネープランにどのように組み込んでいくかを具体的に検討します。例えば、一方の「早期リタイア資金」と、もう一方の「子どもの教育資金」という異なる目標があったとしても、全体収入の中からそれぞれの目標達成に必要な資金をどのように配分するか、といった形で計画に落とし込んでいきます。
具体的な検討事項としては、以下が挙げられます。
- 各目標に必要な資金の総額と準備期間
- 目標達成に向けた年間または月間の貯蓄・投資額
- 収入の中からの配分割合
- リスクの取り方に関する共通認識の確認(投資を行うか、どのような方法で、どの程度まで)
ステップ5:具体的なアクションプランを立て、合意形成する
検討した内容に基づき、具体的なアクションプランを作成します。「毎月〇円を共通の貯蓄口座へ」「毎月〇円を個別の投資に回す」「〇年後の教育費のために積み立てを開始する」など、誰が、いつまでに、何をするのかを明確にします。
この過程で意見の対立が生じることもあるかもしれません。そのような場合は、感情的にならず、一度立ち止まり、お互いの意見の根拠や懸念点を再度共有することが有効です。妥協点を見つけること、あるいは、すぐに結論を出さずに時間を置いて再度話し合うことも選択肢として考えられます。最終的には、夫婦双方が「これならやってみよう」と思える形での合意形成を目指します。
ステップ6:計画を実行し、定期的に見直す
立てたアクションプランは、実行に移すことが最も重要です。そして、一度決めたら終わりではなく、定期的に(例えば半年に一度、または年に一度)夫婦で計画を見直し、進捗を確認します。ライフイベントの発生(昇進、転職、出産、住宅購入など)や経済状況の変化に応じて、目標や計画を修正する必要が出てくることもあります。見直しの機会を設けることで、変化に対応し、常に二人の目標と計画が一致している状態を維持することができます。
事例に学ぶ:目標の違いを乗り越え、共通の未来を築いた夫婦
仮に、共働きで30代後半のAさん夫婦の事例を考えてみましょう。夫のAさんは、将来的に独立することを視野に入れており、まとまった事業資金と生活防衛資金を貯めることを優先したいと考えていました。一方、妻のBさんは、早期に住宅を購入し、家族が安心して暮らせるマイホームを持ちたいという目標を持っていました。
二人はそれぞれが自分のお金の目標に意識が向いており、相手の目標については漠然としか理解していませんでした。そのため、住宅ローンの話が出ると夫は難色を示し、夫が事業資金の話をすると妻は不安を感じるといった、すれ違いが生じていました。
ある時、思い切って夫婦でお金についてじっくり話し合う機会を持ちました。まずはお互いの目標を具体的に伝え、なぜその目標を持つのに至ったのか、背景にある思いを共有しました。夫は「会社に縛られず、自分のペースで仕事をすることで、家族と過ごす時間を増やしたい」という思いを語り、妻は「賃貸の家賃を払い続けるより、資産となる家を持ち、家族で安らげる場所を早く確保したい」という願いを伝えました。
話し合いを通じて、二人の根底には「家族の幸福と安定」という共通の願いがあることに気づきました。そこで、二人の目標をどのように両立させるか、具体的な方法を検討しました。話し合いの結果、以下のような計画で合意しました。
- 当面は夫の事業資金と生活防衛資金の準備を優先する。ただし、住宅購入の可能性を完全に排除せず、〇年後に再度検討する機会を設ける。
- 妻の住宅購入の願いも尊重し、将来的な頭金となる資金の積み立てを開始する(夫の事業資金とは別に)。
- 夫は独立時期を〇年後と具体的に定め、それまでの期間に収入を増やし、貯蓄ペースを上げる努力をする。
- 妻は住宅に関する情報収集を続け、希望条件や資金計画を具体化しておく。
- 半年に一度、家計会議を行い、目標への進捗と計画の調整を行う。
この事例のように、目標が異なる場合でも、お互いの考えや価値観を深く理解し、共通の願いを見つけ出すことで、両者がある程度納得できる形での解決策を見出すことは可能です。時間はかかるかもしれませんが、諦めずに建設的な対話を続けることが重要です。
夫婦で「お金の目標」を共有し、共に未来を築くことの価値
夫婦それぞれがお金に関する異なる目標を持つことは、決して悪いことではありません。それは、それぞれが自立した個人であり、独自の経験や価値観を持っている証拠です。しかし、その違いをそのままにしておくと、将来への不安や夫婦間の対立の種になりかねません。
大切なのは、異なる目標を持つ事実から目を背けず、お互いの目標を尊重しながら、建設的な対話を通じて共通の理解を深め、二人の「お金の目標」を統合していくプロセスです。このプロセスを通じて、夫婦は単なる家計の共有者としてだけでなく、人生のパートナーとして、より強い絆で結ばれていくことができます。
お金に関する目標を共有し、共に計画を立て、実行していくことは、夫婦共通の「未来」を具体的に形作っていく作業です。それは時に困難を伴うかもしれませんが、お互いを理解し、支え合いながら乗り越えることで、夫婦関係はより豊かになり、将来への安心感も高まるはずです。ぜひ、お互いの目標に耳を傾けることから始めてみてください。