金融リテラシーの差がある夫婦が円満に資産形成・将来設計を進める対話術
共働き夫婦の多くは、お互いに仕事や家庭に忙しく、将来に向けたお金の話をする時間を確保することが難しいと感じているかもしれません。さらに、夫婦の間で金融に関する知識や関心に差がある場合、お金の話し合いがスムーズに進まず、関係に亀裂が入る原因となる可能性も考えられます。一方が積極的に情報収集や資産運用に関心を持つ一方で、もう一方はお金の話に苦手意識を持っていたり、関心が薄かったりする状況は少なくありません。このような金融リテラシーの差は、将来設計や資産形成の方向性に関する意見の不一致を生み出し、夫婦間の対話をより困難にしてしまう場合があります。
金融リテラシーの差が夫婦のお金の話に与える影響
金融リテラシーの差が夫婦関係に及ぼす影響は多岐にわたります。
まず、知識を持つ側が主導権を握りすぎ、知識が少ない側が置いてきぼりになってしまうという状況が考えられます。これにより、意思決定のプロセスに偏りが生じ、知識が少ない側は納得感を得にくくなる可能性があります。また、「自分はよく分からないから」と話し合いから距離を置いてしまうことで、将来の家計に対する当事者意識が薄れる懸念も生じます。
逆に、知識がある側が、ない側に対して専門用語を多用したり、一方的に説明したりすることで、相手に「馬鹿にされている」「話を聞いてもらえない」といった印象を与えてしまう可能性も考えられます。これは、お互いを尊重するという夫婦関係の基本を揺るがしかねません。
さらに、情報格差は不安や不信感につながることもあります。パートナーがどのような金融商品に投資しているのか、リスクをどの程度理解しているのかが分からないと、将来に対する漠然とした不安を抱えやすくなります。最悪の場合、お金に関する隠し事や無関心が原因で、夫婦間の信頼関係が損なわれる可能性もゼロではありません。
これらの問題は、お金そのものの知識不足だけでなく、知識や関心の差に対する夫婦間のコミュニケーションの取り方が大きく影響しています。
お互いを尊重しながら金融リテラシーの差を乗り越えるための考え方
金融リテラシーに差がある状況を乗り越え、円満にお金の話を進めるためには、単に知識を埋めるだけでなく、夫婦間のお互いを尊重する姿勢と、対話の工夫が不可欠です。
重要なのは、「どちらかが優れている」「どちらかが劣っている」という見方をしないことです。金融リテラシーは、特定の分野の知識や経験に過ぎず、夫婦それぞれが持つ他の知識やスキル、価値観と同様に、個性の一つとして捉えることが建設的です。お互いの得意なこと、苦手なことを認め合い、補完し合う関係性を築くことを目指します。
次に、共通の目標を設定することが有効です。「何のために」お金の話をするのか、という目的意識を夫婦で共有することで、金融知識の習得や話し合いへのモチベーションを高めることができます。例えば、「〇年後に住宅を購入する」「子供の教育資金を確保する」「〇歳までに経済的自立を目指す」といった具体的な目標があると、その達成のためにどのような知識が必要か、どのような行動を取るべきかが見えやすくなります。
そして、知識の差があることを前提としたコミュニケーション方法を確立します。知識がある側は、専門用語を避け、相手のペースに合わせて分かりやすく説明することを心がけます。分からないことがあれば、何度でも質問しやすい雰囲気を作ることが大切です。知識が少ない側も、「自分には無理だ」と諦めるのではなく、分からない点を正直に伝え、理解しようと努める姿勢が求められます。
実践的な対話ステップと具体例
金融リテラシーの差がある夫婦が、お互いを尊重しながらお金の話を進めるための具体的なステップを提案します。
ステップ1:現状の知識レベルと関心度を共有する
まず、お互いが金融に関してどの程度の知識があり、何に関心があるのか、あるいは何に不安を感じているのかを率直に話し合います。
- 会話例:
- 夫:「最近、老後資金のこととか漠然と不安なんだ。〇〇は投資とかに関心ある?」
- 妻:「正直、投資とかよく分からないんだけど、将来のために何かしないといけない気はしてる。〇〇は何か調べてるの?」
- 夫:「少しだけ本を読んだりしてるけど、専門用語が多くて難しいなと感じてる。特にこの辺りがよく分からなくて…」
- 妻:「そうなんだね。私は何から手をつけたらいいのかも分からない状態かも。」
このように、現状の認識や感情を共有することから始めます。相手を非難するのではなく、「自分は今こう感じている」「この辺りが分からなくて困っている」というように、自分の状態を伝えることに焦点を当てます。
ステップ2:共通の「学びたいこと」「知りたいこと」をリストアップする
漠然とした不安や関心を、具体的な「学びたいこと」「知りたいこと」に落とし込みます。
- 会話例:
- 夫:「じゃあ、まずは何について一緒に知りたいかリストアップしてみようか。例えば、貯金以外のお金の増やし方とか?」
- 妻:「うん、いいかも。あと、ニュースでよく聞く『NISA』とか『iDeCo』って何なのか知りたいな。退職金とか年金についても、ちゃんと理解しておきたいかも。」
夫婦で話し合いながら、興味や必要に応じてリストを作成します。最初は小さなことからでも構いません。
ステップ3:情報収集や学習の方法を相談し、役割分担を検討する
リストアップした項目について、どのように情報を集め、学ぶかを相談します。得意な方が主導する部分があっても良いですし、一緒に学ぶ方法も考えられます。
- 会話例:
- 夫:「じゃあ、『NISA』と『iDeCo』について、まずは分かりやすい入門書を探してみるのはどう? 僕がいくつか候補を見つけてくるよ。」
- 妻:「ありがとう。私は動画とかの方が分かりやすいかもしれないから、YouTubeで探してみるね。で、お互いに見聞きしたことを、また週末に少し話す時間を持てないかな?」
このように、役割分担をしたり、情報共有の場を設定したりします。情報収集や学習の過程で、分からないこと、疑問に思ったことを共有し合うことが重要です。知識がある側は教えることを楽しむ姿勢で、ない側は学ぶ意欲を持って臨むことが望ましいです。
ステップ4:定期的に情報共有・意見交換の場を持つ
ステップ3で得た情報を持ち寄り、お互いに分かりやすく説明し合います。専門用語は避け、具体例を交えながら話す練習をします。
- 会話例(情報共有時):
- 夫:「この本によると、『NISA』は投資で得た利益にかかる税金がゼロになる制度らしいよ。年間〇万円まで投資できるんだって。」
- 妻:「なるほど!じゃあ、もし増えたとしても税金がかからないってことね。それはお得かも。でも、元本が減るリスクもあるんだよね?」
- 夫:「そうそう。そこが投資のリスクだね。この本にはリスクについても書いてあったから、次はそこを一緒に見てみようか。」
この時間は、知識のインプットだけでなく、お互いの理解度を確認し、疑問点を解消するためのものです。間違っている点があっても指摘の仕方に配慮し、相手の理解を助けることに重点を置きます。
夫婦事例:金融リテラシーの差を乗り越えたAさん夫婦
共働きのAさん夫婦は、夫が金融に関する情報収集が好きで投資も行っていましたが、妻は「難しそう」「怖い」という理由で無関心でした。夫が一方的に投資の話をしても、妻は上の空で、将来の資産形成について建設的な話し合いができませんでした。
そこで、夫婦は「子供の教育費と自分たちの老後資金を具体的に考える」という共通目標を設定しました。まず、妻が何に不安を感じているかを夫が丁寧に聞き、夫は投資の具体的な仕組みやリスクについて、専門用語を使わず、図解入りの書籍を使って分かりやすく説明することを心がけました。
妻は、夫が非難するのではなく、根気強く説明してくれる姿勢を見て、少しずつ学ぶ意欲が湧きました。夫婦で「初心者が知っておくべきこと」というテーマで月に一度、30分だけ情報共有の時間を設けました。夫が調べた内容を妻に説明し、妻が疑問点を質問するという形で進めました。
この取り組みを続けるうちに、妻も金融の基礎知識が身につき、投資に対する漠然とした恐怖心が和らぎました。今では、夫婦で話し合いながら資産配分を決めたり、定期的に運用状況を確認したりするようになり、将来に対する不安が軽減されたと感じているそうです。
まとめ
夫婦間の金融リテラシーに差があることは、必ずしも問題ではありません。重要なのは、その差を認識し、お互いを尊重しながら、共通の目標に向かって共に学び、対話する姿勢を持つことです。知識の量よりも、信頼関係を築き、協力して家計や資産について考え、行動していくプロセスそのものが、夫婦円満なマネープランニングの基盤となります。忙しい日々の中でも、少しずつで構いませんので、お互いのペースを尊重し、理解し合おうとする対話を始めてみてはいかがでしょうか。